安全面・環境面からLPガスを選択

安全面・環境面からLPガスを選択

有限会社シンセイフーズは、三重県多気郡明和町にある食品製造メーカー。主力製品は井村屋株式会社が販売する肉まんやあんまん等の製造で、その販売エリアは、東は東海・北陸・信越地方、西は中国・四国地方まで広範囲に渡る。同社は、井村屋の製品や生乳の運送を行っていた伊勢高速輸送(有)の隣地で、食品加工業の会社を平成2年に買い取り、肉まん等の製造を開始し、今年(令和元年)で30期を迎える。2018年度の売上高は15億円、従業員数42名(正社員数)。

物流部門を所有する強みを活かした経営戦略

伊勢高速輸送(有)は、昭和44年に潮田社長の父親が立ち上げた。競争が激しい業界でなかなか運賃も上がらない中、井村屋の協力もあり、製造会社を立ち上げることになった。「当時は26歳で運送業だけでも手がいっぱいの状態で、製造会社を見ろと言われた時には、本当に苦労した」と潮田社長は語る。しかしその結果、製品の製造と運送を一手に請け負う「まんじゅうを作る運送屋・運送をやるまんじゅう屋(潮田社長)」という、ユニークな業態が誕生する。

創業当初は主にコンビニエンスストア向けの冷凍品のまんじゅうを製造していたが、平成20年より主にスーパーマーケット向けである日配商品に変更した。冷凍品は保存できるため生産計画が立てやすいが、日配商品は消費期限が短く、顧客からのオーダーに合わせて製造するため、日々の製造量が2、3倍程度の幅で変動することもあり、その意味で生産が難しい商品でもある。

そこで強みとなるのが、自社グループで所有する物流部門だ。他社に輸送を委託する場合、配送先やトラックチャーター数の急な変更にはなかなか応じてもらえないが、これを自社グループで所有していれば、日々の出荷量の変化に応じて柔軟に対応することができる。「直前に変更があっても、自社グループならドライバーがいれば対応できる(潮田社長)」。この製造と物流を一体化したシステムが日配商品の性格とうまくマッチし、主要取引先である井村屋からも大きな評価を得ている。

ガス熱処理炉

LPガスボイラー導入の経緯

同社では従来主要熱源としてA重油ボイラーを使用していたが、地下埋設タンクの使用年数が30年を超えて老朽化していたこと、また埋設配管が地震等で破損して重油が漏洩するのではないかという安全・環境面での懸念があった。そこで元々事務所の給湯用LPガスで取引のあったLPガス販売事業者(名古屋プロパン瓦斯株式会社)に相談したところ燃料転換の提案があり、三浦工業製2tボイラー3台と3tの民生用バルクの導入を決断した。

通常、この規模の供給設備に設置されるベーパライザーは電気式が多いが、電気式導入による電気代増加(年間80万程度)や、工場全体でのピーク時の電力消費量を削減するため、本設備では蒸気式が採用された。

ボイラーについては、三浦工業製の最新型LPガスボイラーを採用した。以前同社製の重油ボイラーが故障した際の対応が非常に迅速であったことから、潮田社長は三浦工業のアフターフォロー体制を高く評価しており、同社製の継続採用につながっている。

また名古屋プロパン瓦斯の充填所が工場から約5km以内にあり、頻繁に充填できるためガス切れの心配がないことも決定要因の一つとなった。

導入してから間もないためコスト面での効果は未知だが、安全性の向上やメンテナンス性の改善、燃料の残量管理の負担軽減等、十分な効果があると実感している。「一番の決め手は安心感と環境性であり、コストはトントンでもよいと考えている(潮田社長)」。

今回導入したLPガスボイラーと3トンバルク

今回導入したLPガスボイラーと3トンバルク

地域社会とのつながりを大事に

同社の所在地である明和町には、飛鳥時代から南北朝時代にかけて伊勢神宮に仕えた斎王(さいおう)の宮殿跡「斎宮」(さいくう)があり、毎年多くの観光客が訪れる。そこで社員の間で観光客向けのお土産として自社オリジナルの商品を開発してはどうかとの機運が高まり、約2年の開発期間を経て、酒まんじゅうを完成させた。その後SNSや口コミで情報が広まり、県外から購入しにやってくるお客さんも現れるようになった。そして平成29年には斎宮駅近くに、喫茶店と酒まんじゅうの販売を兼ねた施設「斎庵」(いつきあん)をオープン。「販売当初は採算が取れるようになるまで5年ぐらいかかるのではないかと見ていたが、徐々に知名度も上がってきており、5年をかけずに採算をとれる見込み、やっていれば広まっていくものだと実感した」。潮田社長は新たな手ごたえを感じている。

創業時、工場の周囲には田畑しかなかったが、最近は住宅も増え、生活圏のすぐ傍に工場があるというように環境が変化した。安定的な工場運営のためには、周囲環境との調和という面がかかせない。同社では工場からの排水・排気にも細心の注意を払い、浄化装置を取り付けている。また近隣に居住している従業員も多いため、会社に良いイメージを持ってもらえるよう取り組んでいる。

今後は、好調な業績を背景にさらなる工場の増強や、昨今の気候変動で雷が多くなっていることから、停電時のBCP対策にも取り組んでいきたいという潮田社長。LPガスが活躍する余地はまだまだありそうだ。

「斎庵」店舗

「斎庵」店舗

潮田敦社長

潮田敦社長

安心・安全を支えるLPガス

この事例は、重油設備の老朽化や安全性に対するユーザーの強い不安があり、そこにLPガスへの燃転がうまくマッチしたという事例である。また住宅地や田畑等を含む周囲環境への影響を最小限にしたいという要望にも対応し、ユーザーの高い評価を得ることに成功している。必ずしもコスト面の訴求だけではなく、ユーザーが抱えている課題にピンポイントで寄り添った提案をしていくことの重要性を、本事例は示唆している。

会社の概要

有限会社シンセイフーズ
三重県多気郡明和町斎宮1854-12
代表取締役:潮田 敦
従業員数:42名
URL:http://sinseifoods.com/

日刊工業新聞「ニュースイッチ」の取材による記事